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時計のオーバーホールについて

時計をお持ちの方なら一度は耳にしたことがある“オーバーホール”ですが、その内容について詳しくご存知の方は限られているのではないでしょうか。今回は、この「オーバーホール」についてご説明します。

1.オーバーホールとは

オーバーホールとは、時計内部のムーブメントを分解し、メンテナンスすることを指します。その作業の中には、洗浄はもちろん、摩耗したパーツの交換や歯車への注油、組み立てをおこなったあとの精度チェックなどが含まれています。動かなくなってしまった腕時計でも、オーバーホールをおこなうことにより本来の動きを取り戻すことがあります。

時計を末永くご愛用いただくために必要不可欠なオーバーホールですが、ムーブメントを細部まで分解し再び組み立てる作業には、高い技術と専門的な知識が必要になります。また、それぞれのブランドによって手法が異なる場合もありますので、是非お買い上げの店舗へご相談ください。

では、「オーバーホール」と「メンテナンス」「修理」は、どういった点が違うのでしょうか。

2.オーバーホールとメンテナンスの違い

「オーバーホール」と「メンテナンス」はどちらも時計の修理に関する用語ですが、作業内容は大きく異なります。

「オーバーホール」は、時計本体を部品単位まで細かく分解し、全てのパーツを洗浄することを指します。内部の状態を確認し、部品に摩耗や劣化が見られればその場で交換をおこないます。いわば時計を“新品の状態に近づける”ための点検整備。時計のパーツを一つ一つ丁寧に調べながら調整をおこなっていく必要があるため、完了までには時間と費用がかかります。

「メンテナンス」とは、時計が正常に動作するためにおこなう部分的な修復のことをいいます。電池の交換やベルトの補修、ブレスのサイズやバックルの留まり具合の調整といった、時計が動く範囲内での限られた整備に留まります。そのため、オーバーホールに比べると作業内容が簡易的になりますが、日頃から定期的なお手入れをすることによって良い状態を長く保つことができます。そして、わずかな不具合が大きなトラブルを引き起こすことを事前に回避できる場合もあります。

3.オーバーホールが必要な理由

時計の内部はゼンマイと呼ばれるパーツと多数の歯車が緻密に組み合わさることで動いています。この時、部品同士が接触することにより生じる金属の摩耗を防ぐため、歯車の一つ一つには潤滑油が注されています。場所によって粘度の異なる油を使い分けながら注油することで、内部が滞りなくスムーズに動作するようになるのです。

しかし、この油は月日の経過と共に次第に酸化し、乾燥していきます。潤滑油が乾燥しきってしまうと、金属が摩耗したり錆や腐食が発生し、故障の原因になります。ムーブメントが円滑に動かなくなることで、時刻を正確に表示することが難しくなる場合もあります。

また、腕時計の裏蓋に使用されている防水用のパッキンも、日数が経つと汗や垢などの汚れによって徐々に防水性が低下します。気が付かないうちに内部に水が入り込み、結果として時計の精度の低下や内部の部品の破損を招く原因にもなりかねませんので、こうした事態を防止するためにも、オーバーホールは必要なのです。

時間が経つにつれて乾燥していく潤滑油や、使用する頻度が高くなるにつれ傷んでいくパッキンも、早い段階で定期的に整備をすれば、高い品質を保った状態で末永くご愛用いただくことができます。また、時計を部品単位まで細かく分解することで、外から見ただけでは判別できない不備を早期発見することも可能となります。

クォーツ時計は、オーバーホールが必要ないとお考えの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、針を動かすために多数の歯車が内部に使用されている点は機械式と変わりありませんので、定期的な注油の作業が必要となってきます。歯車が動きにくくなると動力を多く必要とするようになり、電池の消耗が早くなるからです。電池が切れた状態で長時間放置すると、稀に液漏れを起こすことがあります。それにより、内部の部品に錆が発生したり劣化を引き起こしたりする場合もありますので、クォーツ式の時計でもオーバーホールは必要となってきます。

4.オーバーホールの適正頻度

オーバーホールの頻度は、一つの時計を長時間身に着けるのか、あるいは複数の時計の中から選ぶのかで使用頻度が違っても、一般的にはおおよそ5年前後が望ましいといわれています。(時計が作られた年代やモデル、防水性の有無などにより推奨されている頻度が異なる場合もあります)購入してから、あるいは前回のオーバーホールからその程度の期間が経過した時計は、時刻のずれやゼンマイの持続時間に気に留めてみるとよいでしょう。

時計に異常がみられる場合は、是非早めに専門店あるいは購入店舗へ相談してください。時計が遅れたり進んだり、リューズが巻きにくくなったり、持続時間が短くなるなどの不具合が見られるようであれば、できるだけ早い段階で点検に出すことをおすすめします。内部に壊れた部品があると、他の箇所にも負荷をかけてしまう可能性がありますので、オーバーホールはなるべく定期的に出すのが望ましいと言えるでしょう。

5.オーバーホールの工程

続いて、作業の流れについてご説明します。

腕時計の裏蓋を開き、時計を動かしているムーブメントを取り出します。全てのパーツを一つ一つ分解し、修理や調整が必要な部品の有無を確認します。交換の必要性があるかどうかも判断しながら、他の部品も埃や錆、電池の液漏れがないか等を細かくチェックします。

次に文字盤を取り外し、針同士の接触や、歯車の嚙み合わせを細部まで調べます。非常に小さなミリ単位のネジや、シェルなどの特殊な素材でできた文字盤を扱うこともあるため、細心の注意を払う必要があります。

続いて、分解したパーツに付着している汚れを丁寧に洗浄します。部品により定められた時間を厳守しながら、数段階に分けて綿密な洗浄作業がおこなわれます。劣化した油や摩耗した際に発生する粉などを落とし、新品に近い状態まで戻すのです。

ケースやブレスレットについた汚れも超音波で洗浄をおこないます。また、日常的に使用する上で生じた細かい使用傷などは、ポリッシュと呼ばれる研磨作業を施すことにより時計本来の輝きを取り戻します。

摩耗して傷ついた部品がないか顕微鏡で確認しながら、再度組み立てをおこないます。各モデル・各箇所によって細かく決められた量の潤滑油を注していき、スムーズに歯車が動くかどうかも確認します。また、防水性を高めるために必須なゴムパッキンも交換します。

測定器を使用しながら組み立てたムーブメントの精度を細かくチェックします。一日で発生する時計の遅れや進みの具合を日差と呼び、それが許容範囲内に収まっているかどうかを調べるのです。日常生活でさまざまな姿勢で使用されることを想定しながら、角度を変えて何度も計測を繰り返していきます。それは0.001ミリ秒単位での微調整となりますので、高い精度の追及にはとてもデリケートな技術が必要です。

最後に、分解していた外装部品を組み上げて、針や文字盤などをケースの中へ収めます。そして、仕上がった腕時計が正確に時間を刻むかを厳しくチェックします。防水性をテストしたり、時計をあらゆる方向に回転させたり、ゼンマイが巻き上げられることできちんと歯車が可動するかどうかを実測で調査し、問題なければオーバーホールが完了となります。

 では、時計を“ほぼ新品”の状態にまで戻すためにおこなわれるこのオーバーホールに、費用はどのくらい必要なのでしょうか。

6.オーバーホールの費用

「オーバーホールって高いんでしょ?」「今は動いているし、料金も高そうだし、まだしばらくはいいかな」という声もよくありますが、オーバーホールは、ご購入後5年前後のタイミングでご検討ください。費用や納期は悩みの種ですが、末永くご愛用いただくために必要なものです。

費用の目安は「クォーツ時計」「機械式時計」など、ムーブメントの種類によって違ってきます。また、時計のモデルや機構によっても細かく異なりますが、できるだけ正規店を経由してメーカーでおこなっていただくことをおすすめします。料金は少々嵩みますが、オーバーホール完了後、1~2年(期間はブランドにより異なります)のメーカー保証がついてくるからです。これは正規店ならではの大きなメリットと考えて良いでしょう。

オーバーホールの料金は、シンプルな機構のもので5万~10万前後がオーソドックスですが、ブランドにより価格は異なりますので、詳しくはお問い合わせください。

先延ばしにする事でパーツの交換が必要になる場合がありますので、是非定期的におこなうことをおすすめします。

腕時計を正しく美しい状態で、精度を保ちながら使用していくために必要なオーバーホール。大切な時計の調子が悪くなる前に、定期的におこなうことが末永くご愛用いただく秘訣といえるでしょう。

お持ちの時計に関することでご不明な点やご不安な点がございましたら、いつでもカミネにご相談くださいませ。

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COLUMNコラム

篠田哲生

最高峰の時計ブランド「パテック フィリップ」の魅力とは何だろうか?
数々の仕事を通じてこのブランドに出会い、魅了され、遂にはユーザーとなったライター、ウォッチディレクターの篠田哲生氏が、自身の目と経験から感じた、"パテック フィリップのこと"について語る。

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