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クォーツ式腕時計

「クオーツショック」という言葉を聞いたことはありますか。
時計の歴史をご存知の方は、一度は聞いたことがある言葉だと思います。

1964年、セイコーが世界で最初のクオーツ式腕時計「アストロン」を発売しました。

機械式時計が高級品であった当時、安価で精度も優れるクオーツ式腕時計の登場により、スイス時計業界は危機を迎えます。

スイスの高価な機械式腕時計の需要は低下し、時計ブランドの数はピーク時の3分の1にまで減りました。

この一連の流れが「クオーツショック」です。

1980年代に入ると、スイスの高級機械式腕時計の人気は徐々に復活していきます。

精度ではクオーツに及びませんが、職人によって繊細に組み上げられる機械式腕時計は工芸品としての美しさが再評価されたのです。

かつて機械式腕時計は文字盤、ケース、ムーブメント等それぞれメーカーが異なる分業制が主流でしたが、自社でムーブメントの開発、製造、組立、仕上まで一貫して行う「マニュファクチュール」と呼ばれるブランドが台頭し始め、評価されるようになったのもクォーツショックからでした。

今回はクオーツ式時計の仕組みや歴史について解説していきます。

・クオーツ式腕時計とは

クオーツとは「水晶」を意味しています。

電池を動力として、水晶を使ったIC回路、時分秒針を動かすステップモーターで構成されています。
水晶は電流を流すことで素早く正確に振動する特性を持っています。
腕時計の精度にはこの振動が大きく関わってきます。振動数が高いと精度も良くなります。
現在の機械式の振動数は一般的に毎秒5~10回であるのに対して、クオーツ式だと正確に毎秒3万2768回。
いかにクオーツ式腕時計の精度が優れているかが分かりますね。

水晶によって生み出された振動がIC回路によって1秒に1回の電気信号に変換されます。
その信号がステップモーターに送られ、秒針を動かします。
クオーツ式腕時計の秒針が1秒ごとに動くのは、1秒に1回電気信号が送られるためだったのです。
そして秒針が動くたびに分針が取り付けられた歯車も動き、一周すると分針が進み、同じように分針が一周すると時針が進むというわけです。

・クオーツ式腕時計の歴史

基礎原理はアメリカ発祥。

1880年、フランスの物理学者である、ピエール・キュリー(キュリー夫人の夫)と、その兄のジャックによって水晶などの結晶体に電圧をかけると一定のリズムで正確に振動する性質があることが発見されました。

1927年、これをもとにアメリカの研究者のマリソンがクオーツ時計の基礎原理を考案し、試作を行います。
そのとき作られたのは部屋1つ分はあろうかという巨大な装置で、研究機関や放送局などのごく限られた施設に置かれるのみでした。しかし、クオーツ時計の精度は高く評価されていました。

また、日本では1937年に古賀逸策がクオーツ時計の開発に成功しました。
クオーツ機構を小型化し、初めて腕時計に搭載することに成功したのはセイコーでした。

セイコーは1964年の東京オリンピックで公式スポンサーになるべく、クオーツ時計の開発に注力します。

1958年に放送局用に開発した時計は大型ロッカーほどの大きさがありましたが、

1964年には卓上型のクリスタルクロノメーターの開発に成功します。これは世界で最初の持ち運びができるクオーツ式時計でした。

東京オリンピックはクオーツ式時計による高い精度の計測を成功させた史上初のオリンピックとなり、「世界のセイコー」のフレーズとともに、世界に認められる時計メーカーになりました。

東京オリンピックでの成功を受け、セイコーはクオーツ式時計の開発を更に進め、 1969年12月25日、遂に世界初のクオーツ式腕時計「アストロン35SQ」を発売します。

アストロンの価格は45万円。当時、大卒の初任給が3万円ほどだったことから考えると、現代の価格で300万円を超えるような超高級時計でした。

また、アストロン35SQは、記念すべき世界初のクオーツ式腕時計として、アメリカのスミソニアン博物館に永久展示されています。

・クオーツ式腕時計と機械式腕時計の違い

 クオーツ式機械式
動力電池ゼンマイ
精度月差±20秒日差-10~+20秒
パワーリザーブ高い低い
価格安価高価
メンテナンス電池交換のみ ※1オーバーホールが必要
寿命10年程度 ※2一生使える

※1 オーバーホールが必要な場合もあります
※2 定期的にオーバーホールを行うことで伸びる可能性もあります

・動力
クオーツ式と機械式の最大の違いは動力源。
クオーツ式は電池が動力源ですが、機械式は巻き上がったゼンマイがほどける力で動きます。
クオーツの電池はぜんまいに比べてトルク(=力)が弱いことでした。
太くて重い針を動かせない。時刻表示以外の機能面を充実させられないといった制約がありましたが、現在のクオーツ式時計はその弱点も克服されてきました。

その代表が、グランドセイコーの手がける「9Fクオーツ」です。

弱いトルクでも、モーターの技術向上によって高い駆動力が発揮されるもので、機械式のように太く、大きな針を動かし、カレンダー表示を瞬時に切り替えることが可能になりました。             

・精度
一般的な機械式の精度が日差−10秒~+20秒程度と言われているのに対して、
クオーツ式は月差±20秒程度。機械式とクオーツ式で大きく精度に差があります。
さらには、年差のクオーツも開発されています。
グランドセイコーは年差±5秒のムーブメントを、シチズンのエコドライブムーブメントは、なんと年差±1秒。
日本の時計ブランドの精度に対するこだわりは、世界でもトップレベルです。

これに対してクオーツ式は部品数が50個~80個程度であり、比較的衝撃に強いことに加えヒゲゼンマイを持たないため、磁気にも強いです。

クオーツ式も磁気の影響が全くないわけではないため、磁石から少なくとも5㎝は離すように意識していただくと安心です。   

・メンテナンス

機械式は3~5年に1度はオーバーホールが必要とされています。
これに対して、クオーツ式はおおよそ7~8年に1度と言われています。クオーツ式のメンテナンスは基本的には電池交換のみですが、長く使い続けるためにはオーバーホールが必要です。
クオーツ式腕時計にオーバーホールはいらないように感じますがやはりクオーツ式も歯車の潤滑油や、防水パッキンの劣化は起こります。
潤滑油の劣化により、歯車がスムーズに動かなくなると、動かすためにより大きな力が必要になります。
そうすると電池の減りが早くなり、電池交換の頻度が多くなってしまいます。
また、防水パッキンの劣化は時計の外観からはわかりにくく、劣化に気づかない場合が多いです。
防水パッキンが劣化したまま時計を使い続けると、湿気が入り込み、ムーブメントに錆が発生してしまいます。
これらを防ぎクオーツ時計を長くお使いいただくためにも、定期的なオーバーホールをおすすめします。

・注意事項

クオーツ式の寿命を長く使い続けるためには

●電池切れで放置しない・・・電池切れしたクオーツ式を放置していると、電池が液漏れを起こし、ムーブメントやIC回路にまでダメージを与える可能性があります。
電池が切れたらすぐに交換を行い、長期間使用しない場合は電池を抜いておくようにしましょう。

●定期的にオーバーホールを実施する・・・定期的にオーバーホールをすることで、ムーブメントの異常や、劣化した部品があれば交換もできます。

〇まとめ

時計の精度をとことん追求するために生まれたクオーツ式腕時計は、機械式とはまた違った歴史や時代の潮流に沿った流れがありますね。

日本の時計メーカーSEIKOが世界初のクオーツ式腕時計を開発したことも、誇れることではないでしょうか。
カミネクロノメトリー店ではグランドセイコーの時計も取り扱っております。同ブランドは機械式だけでなく高精度なクオーツ時計もラインナップしております。
ぜひ店頭にお越しください。お待ちしております。

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COLUMNコラム

篠田哲生

最高峰の時計ブランド「パテック フィリップ」の魅力とは何だろうか?
数々の仕事を通じてこのブランドに出会い、魅了され、遂にはユーザーとなったライター、ウォッチディレクターの篠田哲生氏が、自身の目と経験から感じた、"パテック フィリップのこと"について語る。

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